咬めることの意義

 歯を失うと、脳機能に悪影響を及ぼします。
咬むことが脳細胞を活性化するのは、多くの臨床例や疫学調査からも分かっています。1994年に九州大学歯学部の研究グルーブの高齢者を対象にした調査でも、痴呆症の程度が進むにつれ、残存歯数が少なくなり、義歯の使い方も下手になり、咬む力も弱くなって、重度の人はほとんど咬んでいないと報告されています。
 日ごろよく咬んで食事をしている人は咬んでいる時に、脳の神経細胞が活発になることが確認されています。しかも、咬む回数が多い人ほど強く活性化されているので、咬むことが脳の活性化に重要な役割を果たし、ボケの防止には、よく咬むことが重要だということが推測されます。
 
現代人の精子減少には噛まないことが大きく影響している。
 最近、環境ホルモンの影響と考えられる精子数の減少が各地で報告されています。1992年デンマークのスカケベック博士らのチームは過去50年間に成人男子の平均精子数が精液1ml中に1億1千300万個から6干600万個へと6割弱に減少したと発表しました。
 日本でも1998年3月、帝京大学の研究グループが、日本の20代の若者の精子数の減少や運動率の低下が著しいという調査結果を発表しました。精子数が1ml中2干万個を割ると、受精するのは困難になるといわれます。さらに、この精子減少傾向に「咬むことが大きく関わっている」と齋藤滋神奈川歯科大学教授が、報告しています。「精子減少の原因には環境ホルモンの影響もあるが、動物実験では、原因のひとつに、唾液が関係しています。雄のマウスの唾液腺を取ってしまうと、精子の数が3分の1に減って、精子の運動も半分以下に落ちてしまうというアメリカの泌尿器科医A・Liuの実験報告が、1994年にアメリカの泌尿器科学会誌に発表されています」顎下腺を取り除いて、唾液が出なくなっているマウスでも、唾液中に含まれているホルモンを与えてやると、精子数は減少しない。唾液は、食べ物の消化を促進するだけでなく、造精作用やさまざまな生理作用に大きな役割を果たしています。その唾液は咬む動作によって分泌が促進される。しかし軟柔らかい食物ばかり食べている現代人は、だんだん咬まなくなってきている。咬まないから唾液も出ない。その結果、精子は少なくなる。咬まないことによる影響は精子減少だけでは有りません。咬まなくなった結果、顎の力も弱まり、顎も細くなりました。今、もてはやされている小顔がそれに相当します。「小顔現象」の陰で、「顎関節症」が、若い世代に増加しています。「歯科ではこの10年間、虫歯と歯周病という2大疾患のほかに、奥歯を含めた歯並び、噛み合わせの異常とともに、顎関節症が増加しています。顎関節症になると、食べ物が飲み込みにくいとか呼吸がしにくくなったり、頭痛、耳鳴り、難聴、めまい、腰や膝の痛み、平衡感覚不全などが起きます。顎関節症が青年男女から小学生など若年者にまで及んでいる主な理由は、咬まなくなった結果です。

親知らずどころか第二大臼歯も生えなくなった子供が増えた。
 現代人は「噛まなくなった」と言われるが、現代食の咀嚼回数と食事時間は戦前の約2分の1で、卑弥呼の食事の約6分の1に減少しました。たとえば、咀嚼回数は卑弥呼の時代で3千〜4千回近く、それが食品加工技術が進むにつれて少なくなってきました。それでも戦前、戦後すぐのころまでは徳川時代とそんなに変わっていません。それが戦後50年の間に半分以下になりました。その緒果、日本人の顔は、わずか50年で、顎が小さくなり、小顔・うりざね顔の氾濫となりました。
 今、親知らず(第三大臼歯)はもとより第二大臼歯すら生えなくなった子供が増えています。噛むことは、人間の持つ欲求でもあり、「死ぬ直前でも、胃ガンなどで管から栄養を入れている患者さんは、『腹減った、口で噛みたい』と言うそうです。口でものを噛まないと空腹感は満たされないし、生きているという実感は出ないからです。
 ガムを噛むとα波がよく出る、さらに咀嚼罷力を高める効果
 ワールドカッブフランス大会で、選手がガムを噛みながらプレーをしていたことが、批判の的となったが、チューインガムを噛んだ後は、リラックスしたときに出るα波がよく出ることが人間の実験で確認されています。また、リラックス効果だけでなく、咀嚼力を強めることも認識されています。また、車の運転中に眠気防止にガムを咬むことが効果的との報告もあります。
「咀嚼運動が十分に行われていない幼児にチューインガムを用いて咀嚼運動の訓練を行った緒果、最大咬交力が約2倍に増加することが認められました。また、咀嚼力の向上が確認された子供の母親にアンケート調査をしたところ、食べる量が増えたこと、今まで見向きもしなかった食物に興味を示すようになったことも分かりました。

『卑弥呼の歯がいいぜ』という言葉が歯科関係者の間で使われますが、『ひ』は肥満防止、『み』は味覚の向上、『こ』は言葉の発音がはっきり、「の」は脳の発達、『は』は歯の病気予防、『が』はガン予防、『い』は胃腸快調、『ぜ』は全力投球の活力が生まれるということです。食事を時間をかけてよく噛むことが大切です。よく噛めぱ唾液がたくさん出て、ガンの予防にもなるといわれています。しかし、学校給食は、食事を時間をかけて楽しむのでなく、短時間のうちに子供の口に詰め込むことを要求しているかのようです。

 唾液に含まれている消化酵素「ラクトペルオキシダーゼ一には、遺伝子を傷つけ、ガンの発生に深く関係している活性酸素の分解を促進させる働きがあるといわれています。食べ物はひと口30回、箸を置いてよく噛むことです。唾液が多量に分泌され、食べ物の繊維が歯や歯ぐきをよくこすり、歯や歯ぐきを健康に保ちます。食ぺ物をおいしく食べるうえでも、よく咬んで唾液をたくさん出したほうがいい。唾液をたくさん出すためには、よく噛むことが一番です。
 咬むことができるかいないかは、物をつかんだり、体のバランスヲ保つ能力にも大きな影響を与えることが証明されています。咬めなくなると、物を手でつかむ力が、だせなくなるし、体をまっすぐ保つ事もできなくなり、歩くことも出来なくなってしまい寝たきりへと進むことになります。寝たきりの人に入れ歯を作り、入れ歯で食事がとれるようにした結果、ボケも改善し起きあがれるようになり歩けるようになった例が多数報告されています。介護費用の節約にもなり、介護される者だけでなく、介護する側にとっても有益なことです。
 ある小学校で、咬む力と知能指数との関係を調査したところ、大きな相関関係があることが報告されている。

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